「 夜 と 昼 」展によせて

風景と草木、画室から眺める庭を描くようになって、早いもので10年が経ちました。様々な表現を試み次第に変化しながらも、ずっと同じ主題を追い求めていたことを、「 夜 と 昼 」展へむけての制作の折々にあらためて考えていました。

12年前、私は「彼方より彼方へ」という展覧会をしました。彼方からやって来るものと彼方へ帰って行くもの、繰り返し循環しながら繋がってゆく世界は、20代から続けてきた連作の締め括りの仕事でした。白と黒による螺旋の抽象表現は、自身の底に深く降りて行くような感覚があり、当時は心の奥に耳を澄ますように絵と向き合っていました。

その後、写生を始め、自然を見つめるようになりました。毎日、花を描き続けました。それから、自宅の小さな庭を描きました。季節の移ろい、虫や鳥たちのいとなみ、そこで織りなされる命の循環は、描き尽くせぬほど豊かなもだとあらためて気づいたのです。

写生はマルセル・プルーストの小説のマドレーヌのように、私の忘れかけていた様々な事を思い起こすきっかけとなりました。祖父が育てた庭の花々、いつも夏を過ごした小諸の空と胡桃の木、竹薮に積もる枯葉、ノルマンディーの夕焼け、私は目の前のものを描きながら、遠い時空へ、彼方へと想いを馳せていました。

今展の主題は「夜と昼」です。
小さな庭の表情は夜と昼でまったく変わります。月明かりに照らされながら、奥には深い闇があります。そこには、ある気配があります。やがて、朝の光に照らされて草木は輝きます。

光と闇の織り成す世界を描きました。


a piece of space APS/Gallery Camellia
「 夜 と 昼 」展によせて
石塚 雅子
2010年 9月