石塚雅子の絵画

中原祐介

現在の絵画に見られるひとつの傾向は、実在するもののかたちをはっきりと再現していないという点では抽象絵画といっていいが、しかし、何かを連想させるようなところのある作品の登場であろう。それらはほとんどが有機的な形を示していて、たとえば、植物の断片らしく見えたりするが、そうかといって植物と特定できるわけではない。

石塚雅子の絵画も、一見すると何かよく知っている形態を連想させるような感じがする。ところが、さてそれが何かと問われるとはっきりしない。たとえば、ある作品は水の流れと渦巻きのイメージを呼び起こすのかなと思ったりするけれども、そういうイメージがぴったりするわけではない。あるいは、骨のようなものの断片を想像してみたりするが、それもちょっと違うという感じがする。

別段、無理に何か既知のもののかたちをそこに見出す必要はなく、それを抽象絵画と割り切ってみるということもできないではない。抽象絵画の言い方にしたがえば、石塚雅子の作品は円、もしくは楕円、それに紡状のかたちの組み合わせによって構成されている絵画だということになろう。さらに、色彩は単色を基本にしているということがそれにつけ加えられる。もうひとついえば、その色の塗り方と線描には動性が見られ、それが画面にダイナミズムをうみだしているという指摘が可能である。

そこには抽象表現主義とニュー・ペインティングの二つの動向が流れ込んでいる。その有機的形態には抽象表現主義のこだまがあり、その描き方にはニュー・ペインティングの名残が見られる。これをひとつの動向というならば、ポスト・ニュー・ペインティングのニュー・アブストラクトとでもいったものかも知れない。
石塚雅子の絵画はアクリル絵の具とオイル・スティックによっているが、こうしたニュー・アブストラクトの中では、先にも触れたように多くの色彩によるのではなく、単色を基本とし、形態と線の動性によって画面を作り出している点に特徴がある。アクリル絵の具による色面とオイル・スティックによる線をひとつにした画面は、別のいい方をすればペインティングとドロウイングの融合である。その融合という点にこの画家の才能と芸が示されているように思う。

今回発表される新作では、円状のかたちと紡状のかたちが並列しているという点ではこれまでと変わりないが、その数を増して、横への広がりを強く感じさせる作品が出現している。あるいは、作品の変貌の予兆を示すものかも知れない。しかし、何かを連想させるかにみえるという作品の特徴は変わっていない。一見単純に見えて、大きな内容を含んだ絵画である。


1993年5月「石塚雅子展 INAX ART NEWS」より
中原祐介(なかはらゆうすけ・美術評論家)
1993年